京都大学大学院文学研究科21世紀COE 「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」

王権とモニュメント


NEWS LETTER Vol. 2

update:2003年4月29日

新年度最初のニューズ・レターをお届けします。今回報告する「王権とモニュメント」第2回研究会は、完全なフィールドワークでした。そこで今回のニューズ・レターでは、Webの特性を利用して、写真をふんだんに使ったものにしています。ご意見・ご感想などありましたらぜひお寄せください。

なお、ニューズ・レター中で使用している下寺にかかわる写真は、安祥寺ご住職のご厚意によって掲載可能となりました。転用・転載はご遠慮ください。

  1. 第2回研究会報告
  2. 京都大学所蔵古瓦図録Iの刊行
  3. 今後の予定

第2回研究会は、2003年4月19日(土)に行われた。午前中に、本研究会が12月から1月にかけて測量調査を行った安祥寺上寺跡の見学を行い、午後からは現在も法灯を伝えている安祥寺下寺の見学・調査を行った。

安祥寺上寺跡の見学

上原教授による解説

安祥寺上寺跡をまだ見学していない会員のほか、安祥寺のご住職をはじめとする有志の方、合わせて19名の参加を得て上寺跡見学を行った。現地において、上原教授より安祥寺の概略と遺構との関係、測量調査のあらましについて解説があり、根立助教授による本来安置されていたであろう仏像の解説、山田教授による京都国立博物館蔵の蟠龍石柱についての解説が行われた。

安祥寺下寺調査

安祥寺ご住職のご許可を得て、下寺の彫刻・建築を調査することができた。

1.観音堂

観音堂全景 十一面観音像の調査

最初に観音堂に安置されている十一面観音像・四天王像を見学・調査した。美術史の根立助教授によれば、十一面観音像はかなり多くの補修を受けているため判断は難しいが、一木造りの技法で造られたもので、製作時期は平安時代まで遡る可能性もありそうである。また、四天王像については、一部の像が安祥寺創建時に遡る可能性もありそうである。いずれにしてもX線撮影を含めた詳細な調査が必要であり、機会を改めて観音堂の建築と合わせた本格的な再調査を行うことになった。

また、この十一面観音像が安置されている須弥壇の下からは、棟札が発見された。「文化」の紀年のある棟札が発見された。

2.青龍社

青龍社全景 享保17年棟札

青龍社は、安祥寺境内にある社であり、現在京都国立博物館に展示されている蟠竜石柱がかつては本尊として祀られていた。ここでも、中からいくつかの棟札が発見された。写真に示したとおり、「享保十七年」の文字が明瞭に見て取れるものもあった。これは、内容から現青龍社の前身建物の棟札であるらしい。他にも現在の社殿にかかわる「嘉永」の年号を有する棟札があり、安祥寺の歴史を考察する上で貴重な資料となる。建築・美術とともに、再調査が必要である。

3.地蔵堂

地蔵堂全景 地蔵堂の天井

地蔵堂の建物は、安永年間に建てられたものだといい、その天井には美しい植物の絵が今もはっきりと残っている。安置されている地蔵菩薩像は鎌倉期に遡る可能性があり、これも再調査が必要である。

4.大師堂

大師堂全景 恵運像を観察する鎌田教授

大師堂は開山堂とも呼ばれ、弘法大師像を中心として、ほかに4人の安祥寺にかかわる高僧像が祀ってある。写真は、安祥寺開山の恵運の像である。表面の彩色の剥落が著しいのが惜しまれる。

以上のように、安祥寺下寺には建築・美術にかかわる多くの貴重な資料が存在する。これらを詳しく再調査することによって、安祥寺の歴史のこれまで知られていなかった部分が明らかになると考えられる。上寺跡の考古学的調査とあわせて、ひとつの寺院が当時の権力といかにかかわり、どのような歴史を辿ったのか、通時的に研究することが可能となるのである。

今後の再調査の結果などは、随時ニューズ・レター等で紹介していく予定である。

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昨年度の研究成果の一つとして、本研究会では『京都大学所蔵古瓦図録 I 』を刊行した。本書は、京都大学の考古学研究室が所蔵する瓦コレクションの図録である。資料は、1920年に京都大学法学部を卒業した山野道三氏が各地で収集したコレクションであり、1970年に山野氏のご令嬢・川田禎子氏より本学に寄贈された。

本書は、全部で300点近い瓦の実測図・拓本・写真を掲載し、巻末には各個体の観察表を付載している。奈良県・大阪府などで採集した瓦が中心となっているが、中には朝鮮半島の資料も含まれている。なかでも、奈良県下採集と考えられる資料群は数もまとまっており、学術的価値は高い。時代は日本ではじめて瓦が用いられてた飛鳥時代のものから、中世にまで及んでいる。ほかにも、瓦当部完形の軒瓦、刻印を持つ平瓦など貴重な資料が多く、本図録の刊行によってこれらの基礎資料の利用が可能となった。公刊の意義は、この点にある。

本研究会では、現在『京都大学所蔵古瓦図録 II 』の刊行を目指し、工学研究科建築学教室所蔵の瓦コレクションである天沼資料を整理中である。天沼コレクションについては、整理を進めながらこのサイトで紹介していく予定である。

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第3回研究会を、以下の要領で実施予定。

日時
2003年5月13日(火) 18:30〜
場所
文学部旧陳列館1階 会議室
発表者
中町美香子氏・鎌田元一氏
題目
「安祥寺資財帳を読む」