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国際シンポジウム「「自然という文化」の射程」

―シンポジウムの趣旨―

 京都大学文学研究科は平成8年以来毎年秋に公開のシンポジウムを開催してきており、今年は7回目となる。それに加えて、今年は文学研究科において21世紀COEプログラムとして、新しく「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」という研究教育事業が5年間の計画でスタートした。そのため今年は従来の秋の公開シンポジウムに加えて21世紀COEプログラムの推進という意味も込められており、公開シンポジウムは従来にも増して充実したものが企画された。今年のシンポジウムは、国際シンポジウムとして、外国からの研究者もお招きして、通常の書物あるいは書簡の交換ではできない生の直接の声の意見の交換を通して、21世紀の人文学のあり方を問うような実りある議論をすることが特に目指された。

 本年度の企画を担当した思想文化学系では、現代社会の重大問題である環境と自然の問題およびCOEプログラムの目的であるグローバル化と多元性という観点を盛り込んだテーマとして「〈自然という文化〉の射程」を選んだ。この問題は環境倫理学という新しい学問分野の対象として加藤尚武名誉教授が精力的に開拓されてきたものであり、また同時にフランス人学者として長い滞在経験を持つオギュスタン・ベルク教授が近年日本文化を素材とし、京都学派の哲学から大きな影響を受けた独自の風土論を提唱して注目を浴びているテーマである。グローバル化時代における普遍的なものとローカルなものとの関係という視角においても、多元的なアプローチという点においても、最もアクチュアルで実りゆたかな人文学の可能性がここにあることは疑いの余地がない。

 20世紀後半に登場した資源枯渇と環境破壊への危機感は、自然と人間のあるべき関係についての反省をわれわれに迫っている。自然はもはやわれわれの操作や克服の対象としてではなく、人間がまさにそのうちでしか生きられない「環境」として強く意識されている。哲学においても環境倫理学という新しい学問分野が誕生し、人間と自然の共生が模索されている。しかしまた、自然は環境に尽きるわけではない。オギュスタン・ベルクは、自然もまた一つの文化的形成物であり、それ自体が文化であると指摘して、〈文化としての自然〉という観点を提唱している。ベルクは和辻哲郎に基づく「風土」概念を用いて〈文化としての自然〉、さらには〈自然という文化〉にあらわれた日本文明の特質を明らかにし、それが世界に対して発言しうる普遍的メッセージを所有していると主張する。わが国近代の哲学思想と密接に連関したこのような論点が、外国人研究者によってあらたに提起されたことは、今日ひときわ注目に値するものである。グローバル化の必然性と諸文化の独自性の保持の必要性という事態に直面した現代において、自然と環境という問題が今後の社会において持つ重大性を考えるとき、自然概念の歴史性を強調し自然と文化との一体性を説くこの主張をさまざまな観点から検討し、その意義と射程を明らかにすることは喫緊の課題といえるのである。

(本研究科助教授、福谷茂)

[→シンポジウムの概要]